無人島でブランドは生まれない 第一回「対立構造がブランドに? 対決のブランディング」

ブランドとは何なのか。ありとあらゆる人が、この定義付けを試みているこの問いに関する私なりの答えは、「ブランドとは、関係性である」ということ。何と何との関係性なのか?それは、「顧客」と「商品・サービス」である。つまりブランドとは「顧客と商品・サービスの間に生まれる関係性」であると私は認識している。「関係性」であるということは、ブランドは商品・サービスを提供する企業や個人が持っているものでもなければ、顧客が持っているものでもない。両者が存在するからこそ生まれるものなのだ。

企業だけでも、生活者だけでもブランドを作ることはできない。また、相互に影響し合う「思い」や「体験」といった「関係性」が必要となる。この連載では、様々なブランドを取り巻く関係性を具体例で解説しながら、「どのようにブランドを作ればいいのか?」「優れたブランドとは何か?」を考えていきたい。

◼︎人は古くから対立構造が大好き

さて、第一回目に取り扱う「関係性」は、“対決”である。関係性というとお互いがお互いをスキな状態を想像するかもしれないが、そこに関係性が生まれればよい、という視点で見れば対立構造も実は関係性の構築に有効な手段である。

人は対立構造が大好きだ。誰かと誰かが比べあい、戦いあい、勝敗がつく。古くは拳闘の時代から、今に至るスポーツやゲーム、あるいは選挙もその要素を持っているし、我々の日常にはたくさんの対立構造が存在していることに気づくだろう。

私は総合広告代理店である電通の出身であるが、広告代理店においてもその対立構造は存在していた。それが「デンパク」という言葉である。「デンパク」というのは総合広告代理店の売上高1位である電通と2位である博報堂を横並びに合わせたワーディングであり、博報堂の“発明”と言われている。(発明した人のソースがないので眉唾話かもしれないが・・・)

実際は電通の売上高は博報堂の3倍ほどあり、規模としては大きく離れているにも関わらず、この言葉により「電通と博報堂の2社で比べて決めよう」というマインドが生まれ、博報堂のビジネス機会が大きく増えることになった・・・という逸話である。「デンパク」という言葉があることで、電通と博報堂の対立構造が生まれ、そこを比べて優劣を確かめたい、という欲望が発注側クライアントに生まれるというわけだ。

ちなみに2022年卒の大学生における就職人気企業ランキング(東洋経済調べ)で、博報堂は5位であるが、電通は24位である。電通に様々なスキャンダルがあったこともあるだろうが、「デンパク」という言葉があることで、電通を忌避する総合広告代理店志望者が博報堂に流れやすいという現象も確実にあると思っている。発注側クライアントだけでなく、大学生にも影響を与える力があると言えるだろう。

◼︎「きのこ・たけのこ論争」に見る対決企画の手法

誰もがちょっと熱くなる、そんな鉄板の「対立構造」がある。その一つが「きのこVSたけのこ論争」だ。言うまでもなく、明治製菓の商品である「きのこの山」と「たけのこの里」のどちらが好きか?という話。

店頭ではよく並んで陳列されていて、パッケージも名前も対になっているこの商品。身近な存在でもあることで、自然とどちらの方が好みか、という論争が起き、インターネットが普及してからはしばしばネットミームとしても語られるものになった。「私はきのこの山派だ」「いや、たけのこの里の方がうまい」といった感じで。(ちなみに私はたけのこの里支持の急進派だ。きのこの山は軸部分のクッキーがチョコと親和していない、分離している。たけのこの里は全てがマリアージュしている。比べるべくもない!)

こうした「きのこ・たけのこ論争」は人々の中で面白がって語られる程度の存在であったが、近年、明治製菓はこの現象に着目し、この対立構造を煽っているかたちでマーケティングを行うようになった。

例えば「きのこの山 たけのこの里 国民総選挙」という施策は、2017年から2019年までの3年間にわたり毎年開催され話題となった施策である。自社商品に明確に優劣をつけるという、一見するとリスキーなようにも見えるこの手法は、なぜ有効なのだろうか。

ブランドとは関係性である、と述べたが、こうした対決のブランディングは、簡単に“関係性を創り出す体験”をデザインできる手法なのである。

「わたしは(たけのこの里よりも)きのこの山のほうが好きだ」と投票で表明する行為は、顧客目線で言えば宣言することに等しい。人は自分の心の中から、外に向けて意見を表明することで、結果的に自分の心の中にある思いを強め、そして社会的にボジションを築く、という性質がある。

「きのこの山が好きだ」と選挙に投票した人全てが、圧倒的に「きのこの山」を愛しているわけではないはず。比べてみたら、ちょっとだけ「きのこの山」が好きだ、という程度かもしれない。しかしこの総選挙で投票行動をとることによって、結果的に「私はきのこの山が好きだったんだ」という思いが強まり、そしてその思いが実際の購買行動につながる可能性が高まる。つまり、思いを発しポジションを取ることが、商品やサービスへのロイヤリティ(=その商品への愛着)を強める効果があるのだ。

◼︎対立構造がもたらすマーケティング効果

総選挙というのは、しばしばマーケティングで使われる手法であり、あるいはアイドルやアーティストなどでも効果的に使われる手法でもあるが、対立構造を作りポジションを取らせるという以外でも様々な効果がある。ひとつに、投票した人にとっては「自分が投票した勝負の行方を追いかける」というまた異なる体験が生まれること。顧客との関係性構築において、難しいのは継続的な関係を築くことである。人は日々自分の生活に忙しいので、常に何かに興味を奪われることはない。すぐ忘れてしまう。しかし人は対立構造の「結果」に興味があるので、投票した人は選挙の行方が気になる。結果、継続的に顧客の興味を惹きつけることができるのだ。(なので、投票の推移はできればオープンにした方が良い。ないしは中間発表を設けるべき)

また、対立構造を作ることはその人が見る視界を限定するということでもある。そもそも「きのこの山」派の人も、一番好きなお菓子はブルボンの「アルフォート」かもしれないし「ルマンド」かもしれない。世の中にはたくさんのお菓子があるにも関わらず、「きのこの山・たけのこの里論争」では、そのどちらかに与するしかない。対立構造にすることで、半強制的にどちらかのポジションを取らせることができ、他へ拡散する興味を留める力があるのだ。これは政治の世界でもしばしば見られる手法である。とある政策に対する賛成派・反対派のどちらかを選ばせることで争点を絞り込み、その他の争点を棚上げするというやり方である。

対立構造は話題を生み出す力も強く、個人の発信がSNSによって圧倒的にやりやすくなった現代において非常に有効な手段でもある。SNSにおける自己表現において、「私はどっち派」という表明は共通の話題の提供であり、かつ自分らしさをカンタンに表現できるやり方でもある。煽りすぎることによって争いを生む可能性があることには留意すべきだが、適切な構図を作ることができれば、オーガニックな盛り上がりが生まれやすい。

対立構造の面白いところは、勝負の行方は気になるとしても、勝敗の結果が勝ち負けどちらであっても、商品やサービスへのロイヤリティは高まるということだ。勝利側のポジションの人はその勝利に満足し、好意が高まる。敗北側のポジションの人は悔しさから応援したい気持ちが高まる。意見を表明しその対決を見守ることで、結果的によりその商品を好きになるのだ。

Nitendo switchの人気ゲーム、スプラトゥーンでもこの対立構造が活用されている。「フェス」と呼ばれるユーザー参加型のゲーム内イベントで、どっち派かを選択肢戦うというもの。様々な既存の対立構造が題材に使われているが、毎回大きな話題となっていた。

◼︎世界で最も有名な対立構造「コカ・コーラVSペプシ」

対立構造のブランディングは、「デンパク」での事例でも分かるように、同じ会社の2商品でなくても活用できる。世界で最も有名な対立構造は「コカ・コーラVSペプシ」だろう。他にも様々なコーラはあるが、世界にはこの2つしかないようにペプシはふるまう、というマーケティングをしばしば行っている。

「デンパク」の事例と同じように、実際はコカ・コーラとペプシコーラの売上差は非常に大きい。にも関わらず「コカ・コーラ派」「ペプシコーラ派」という話題は成立する。先ほどの「対立構造が視界を限定する」という効果を巧みに活用した世界最大の事例と言えるだろう。

しかし対立構造は複数商品でしかできないのだろうか?そんなことはない。同じ商品でも楽しみ方のファクトが複数あれば対立構造は作れる。例えばパスタの一種であるカルボナーラ。

カルボナーラには日本式(生クリームを使う)とイタリア式(生クリームを使わない)の2つの派閥がある。この2つを活用して対立構造を作ってはどうだろうか。それぞれの作り方に思い入れがある人同士で大きな論争が広がり、話題を作ることができるだろう。パスタブランドがこれを活用すれば、競合商品を想起させることなく単一商品で話題喚起が可能だ。

◼︎文脈なくして対立構造企画は成立しない

筆者がメルカリに在籍していた際、コンテンツマーケティングを実施した時にも、この対立構造を活用したことがある。記事広告の目的は「メルカリにおいて中古ゲームも活発に販売されている」ということを伝えること。記事広告は読まれることが肝要でありコンテンツとして魅力的、かつWEB上での話題化し拡散するものでなくてはならない。

そこで活用したのが、「ドラゴンクエストⅤ」の有名な対立構造、「ビアンカ・フローラ論争」である。スーパーファミコンのRPGである「ドラゴンクエストⅤ」では、物語の中盤で主人公がビアンカとフローラという2人の対照的な女性キャラクターからどちらかを伴侶として選ぶ、という選択肢が生まれる。この選択肢は後戻りできないものであり、結果として「どちらを選んだか?」という選択がプレイヤーの心に深く刻み付けられ、論争のタネになった、というもの。

この論争を取り上げながら記事コンテンツとして作ることによって、費用対効果を大きく上回るWEB上での拡散を作り出すことができた。

参考:https://news.denfaminicogamer.jp/kikakuthetower/181227m

対立構造を活用する上で大切なことは、すでに存在する文脈を活用するということ。文脈が全くないものを企業都合で設定しても、そこに対決構図は生まれない。対決構図に乗っかり、投票行動をしたり語る人々は、もともと持っている自分の中にある体験を表明したい、という思いで集まってくる。もともとの体験がなければ人を動かすことはできない。もし自分の関わる商品やサービスで対決構図を活用するのならば、既にある顧客の声や行動を聞き、そこにあるファクトを活用する必要がある。

また、「勝敗が誰かの利益にならない」ことも非常に大切。その対決の勝敗が特定の誰かや企業の利益になる場合、どちらかに与する行動に責任が生じてしまう。カルボナーラの作り方は、日本式・イタリア式、どちらが多くても誰の幸せにも影響しないだろうが、片方を選ぶことが明らかに会社を利するのであれば、人はその選択を素直に選ばなくなる。

これをミスしてしまったのはケロッグ・チョコワの事例だろう。チョコワVSスフィンクスのワサビ味、どちらが好きかを投票しよう、という企画であったが、この対決の構図においてスフィンクスのワサビ味はただの当て馬であることが明確であった。しかもスフィンクスのワサビ味はその時(というか今もだが)発売されておらず、生活者は何の思い入れもない。

結果的にスフィンクスのワサビ味に大量に票が集まり、ネタにされるといった形で遊ばれてしまった。同じケロッグでもし投票企画をするのであれば、チョコワVSコーンフロスティなどにしていれば、どちらもロングセラー商品で顧客に思い入れがあるものであり、対決は成立したかもしれない。

◼︎まとめ

「ブランドとは、関係性である」と述べた。したがって「ブランディングは、関係性作りである」と考えることができるだろう。対決構造はこうした関係性の形成を分かりやすく、かつスピード早く形成することができる有用な手法と言える。

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